トランプ大統領が誕生してまだ1か月たらずなのに、ものすごい勢いで大統領令にサインをしており、連日ニュースになっています。ここでは、ドナルド・トランプ大統領がサインをした大統領令、ならびに、大統領覚書をまとめます。
大統領令と大統領覚書
自分もまだ勉強中ですが、大統領令(Executive Order、略称:EO)と大統領覚書(Presidential memorandum)なるものがあります。
両者に明確な違いは見られず、区別しないで使われたりもするようです。実際トランプ大統領も大統領令と大統領覚書を一緒くたにしています。
明確な違いがあるとしたら、大統領令は連邦公報(官報:国が発行している新聞のようなもの)に掲示しなければならない、という決まりがあり、大統領覚書には決まりがない、ということくらいでしょうか。
大統領令(Executive Order、略称:EO)
連邦政府や軍に対して、議会の承認を得ることなく、行政権を直接講師することにより発令される行政命令。大統領令のほかに、大統領行政命令、執行命令とも呼ばれる。大統領令の権限は無制限ではなく、連邦最高裁判所が違憲判断を出したり、連邦議会が反対する法律を作ったりすることによって、それに対抗することができる。「大統領令」と「大統領覚書」で違法行為あるいは違憲行為を指示することは認められない。したがって、「大統領令」の合憲性を巡って最高裁で争われることもある。
余談ですがトランプ大統領は就任時に2020年大統領選への出馬を届け出ています。(4年後の選挙に出馬できるシステムも不思議ですが)こんなに早いのは異例だそう。トランプ大統領は現在大統領でありながら候補者扱いになるので、非営利団体(NPO)がトランプさんを名指しで批判した場合、選挙活動を禁じる条項に触れて非営利資格を失う可能性があるとのこと。つまりトランプさんは4年後の大統領選に出馬することによって候補者となり、NPOから名指しで批判されることがないよう牽制している、とみることができます。そんなことしなくても、トランプ大統領なら名指しで批判されてもビクともしないでしょうが。
真意はわかりませんが、トランプ大統領はいろいろやることが早すぎです。
では一覧です!
大統領令一覧(大統領覚書も含む)
1月20日署名
大統領令13765:Minimizing the Economic Burden of the Patient Protection and Affordable Care Act Pending Repeal
オバマケア廃棄に伴う経済的影響を最小限にすることに関する大統領令
覚書:Regulatory Freeze Pending Review for the Heads of Executive Departments and Agencies
政府の各省と各局の長に関する覚書,連邦政府職員の採用凍結に関する覚書
1月23日署名
覚書:Withdrawal of the United States from the Trans-Pacific Partnership
TPPからの脱退
覚書: Barring international non-governmental organizations that perform or promote abortions from receiving US government funding
堕胎手術行っている、または、促進をしている国際NGOへ、連邦予算の割当の禁止。
連邦政府から補助金を貰う国際NGOが堕胎をしたり堕胎を奨励するような活動をしてはいけないというルールで「メキシコシティ・ポリシー」と呼ばれる(メキシコシティで開催された国際連合の人口に関する国際会議で初めて発表されたため、このように呼ばれる)。1984年にレーガン大統領が大統領令に署名、1993年にクリントン大統領がこれを撤廃、2001年ブッシュJr. 大統領が再制定。共和・民主の大統領が就任するたびにころころしている。
覚書:Regarding the Hiring Freeze
米国連邦職員のために90日間の雇用凍結。その後は人事管理オフィスが作る長期的な人員削減計画にのっとること。
1月24日署名
覚書: Regarding Construction of the Keystone XL Pipeline
キーストンXLパイプラインの承認。カナダのハーディスティからアメリカモンタナ州ベーカーを経由しネブラスカ州スティールシティまでの全長1897kmの石油パイプラインの建設。
覚書:Regarding Construction of the Dakota Access Pipeline
ダコタ・アクセス・パイプラインの承認。ノースダコタ州からイリノイ州サウスダコタまで全長1,886kmのパイプライン(地下埋没型)を建設する。
覚書:Regarding Construction of American Pipelines
アメリカン・パイプラインの承認
覚書:Reducing Regulatory Burdens for Domestic Manufacturing
国内製造に対する規制の緩和。国内製造業に対する各種承認や規制をめぐる手続きを簡素化する。
大統領令13766:Expediting Environmental Reviews and Approvals for High Priority Infrastructure Projects
優先順位の高いインフラプロジェクトの環境影響調査促進。石炭や石油開発に関連する環境評価を早めることと、トランプ政権の政策の柱のひとつであるインフラ投資の承認に関するもの。
1月25日署名
大統領令13767:Border Security and Immigration Enforcement Improvements
国境の安全と移民法の執行改善。メキシコ国境の壁は早急に建設をし、不法入国、薬物、人身売買、テロ行為を防止するために監視する。
大統領令13768:Enhancing Public Safety in the Interior of the United States
アメリカ国内の治安強化
1月27日署名
大統領令13769:Protecting the Nation from Foreign Terrorist Entry into the United States
アメリカに入国しようとす外国テロリストを排除。テロが起こりやすい地域からの移民を一時的に中断する。また、米国難民認定プログラム(USRAP)が120日間停止。その後は各国で条件付きで再開。イラク、イラン、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンの7か国からの渡航者はビザの種類に関係なく90日間停止。シリアからの難民の入国を停止。ケースバイケースで例外が付与されることがあり、合法的なグリーンカード保有者は対象外となる。
⇒ イスラム教徒禁止令と呼ばれ、宗教の自由を定める憲法に違反する、と裁判所に提訴される。トランプ大統領やトランプ支持者は国土安全保障の観点から正当性を主張。成田空港でもイスラム圏7か国の方のアメリカ便への搭乗を原則断っている。
⇒ ワシントン州の司法長官が憲法違反か審理するため、この大統領令を一時的に差し止め。アメリカ入国当局は航空会社に対し、入国禁止対象国の人々の搭乗を認めるよう通知した。ホワイトハウスは、異議を申し立てたが、連邦高裁はこれを棄却。
余談ですが、大統領のツイートも公式文書として記録されます。過激な発言のツイートも、大統領になれば収まるかと思いましたが、そうでもなかったですね。
覚書:Rebuilding the U.S. Armed Forces
米軍再建。米軍の即応性を重視し、現在の能力を30日間かけて検証したのち、能力向上のために必要な予算を提言するよう要求。
1月28日署名
大統領令13770: Ethics Commitments by Executive Branch Employees
政府高官の倫理改革として、退職後の5年間は特定の利益のために政府関係者に働きかけを行ういわゆるロビー活動に関わらないよう宣誓することを命じる
覚書:Organization of the National Security Council and the Homeland Security Council
国家安全保障理事会と国土安全保障理事会の組織
覚書:Plan to Defeat the Islamic State of Iraq and Syria
ISISを壊滅させる計画作成
1月30日署名
大統領令13771:Reducing Regulation and Controlling Regulatory Costs
各省庁が新たな規制を1つ設けるごとに、2つの既存の規制を撤廃するよう求める。 2017年9月までの今会計年度で、追加の予算を伴う新たな規制は認めない。軍事、安全保障に関する規制は対象外とする。
2月3日署名
大統領令13772:Core Principles for Regulating the United States Financial System
アメリカ企業が国際企業を競争する能力を促進し、経済成長を促そうとするもの。
覚書:Fiduciary Duty Rule
オバマ政権時の信託基準(Fiduciary Standard)を見直そうよ、というもの。
2月9日署名
大統領令13773: Enforcing Federal Law with Respect to Transnational Criminal Organizations and Preventing International Trafficking
連邦幹部に、国境を越えた犯罪組織の標的設定を優先させるよう指導。
大統領令13774: Preventing Violence Against Federal, State, Tribal, and Local Law Enforcement Officers
法務省に、法執行官に対する犯罪を減らすことに重点を置く特別部隊を構成するよう指導。
大統領令13775: Providing an Order of Succession Within the Department of Justice
オバマさんが署名した命令を逆転させ、司法省内での継承の順序を変更する。
大統領令13776: Task Force on Crime Reduction and Public Safety
司法省に犯罪削減と刑事司法に重点を置く特別部隊を構成するよう指導。
2月24日署名
大統領令13777: Enforcing the Regulatory Reform Agenda
政府の規制をより詳細に監視し、規制ルールを監督する機関内の職員を指定する。
2月28日署名
大統領令13778: Restoring the Rule of Law, Federalism, and Economic Growth by Reviewing the “Waters of the United States” Rule
環境保護庁と陸軍工兵隊を組織し、クリーンウォーター法の下でどの水路を保護すべきかを明らかにするオバマ時代のクリーンウォータールールを再検討する。
大統領令13779: The White House Initiative to Promote Excellence and Innovation at Historically Black Colleges and Universities
歴史的に黒人の大学に顧問委員会を設置し、民間部門や連邦政府との協力関係を強化することを目的として、連邦政府のHBCUイニシアチブ(発案権?)を教育部から行政部門に移管する。
3月6日署名
大統領令13780: Protecting The Nation From Foreign Terrorist Entry Into The United States
1月27日に署名されニュースでも大きく取り上げられたイスラム圏からの入国を禁止する大統領令13769(Protecting the Nation from Foreign Terrorist Entry into the United States)の改定バージョン。
対象国からイラクが除外され、イラン、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンの6カ国となり、ビザや永住権を持つ人は入国できるようになった。
署名されたのは6日だが、効力を発揮するのは3月16日から。
覚書:Implementing Immediate Heightened Screening and Vetting of Applications for Visas and Other Immigration Benefits
国務省、司法省、国土安全保障省に新しい旅行禁止令を実施する方法を指示します。ビザ申請者や他の移民が合法的に入国しようとしているかどうか、ビザ申請者の数を国ごとに公開したり、長期的な詳細を報告するよう指示。
3月13日署名
大統領令13781: Comprehensive Plan for Reorganizing the Executive Branch
連邦政府の支出を削減し、効率性、有効性、説明責任を改善するために、不要な機関を排除し再編する計画を180日以内に提出しなさいという命令。
3月16日署名
覚書:Appropriations request for Fiscal Year (FY) 2017
米国国境を守るために国防総省がISISと戦うために300億ドル、国土安全保障省が30億ドルを追加要求し、衆院に初の予算を送った。大規模な防衛費を相殺するために、国務省と環境保護局の予算をほぼ3分の1に減らし、いくつかの重要な連邦機関の資金を削減するよう要求している。
3月20日署名
覚書:Delegation of Authority Under the National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2017
「核兵器と核分裂性物質の拡散の検証と監視」の計画に関連する、2017年度の国防許可法のセクション3132の下、国務長官に一部の大統領任務と権限を委任した。
3月23日署名
覚書:Regarding the Continuation of the National Emergency with Respect to South Sudan
南スーダンに関する事柄。
3月27日署名
覚書:The White House Office of American Innovation
2014年7月31日オバマさんが制定した大統領令13673 – 公平な支払いと職場の安全に関するもの – を撤廃する指示。大統領13673は2014年12月、2016年8月と改変されているが、これらも撤廃。
3月28日署名
大統領令 13783:Promoting Energy Independence and Economic Growth
オバマ前大統領が温室効果ガス削減のために制定したルールを見直そうとするもの。石油を使っている火力発電の温室効果ガス排出規制を緩和したり、国有地に対する石油採掘を再開したりする。
3月29日署名
大統領令 13784 Establishing the President’s Commission on Combating Drug Addiction and the Opioid Crisis
大統領執行室のポリシーとして、麻薬中毒や過剰摂取の危機に対処するぞ!と宣言。委員会を設立し、麻薬中毒に対する連邦政府の対応の範囲と有効性を調べる。
3月31日署名
大統領令 13785 Establishing Enhanced Collection and Enforcement of Antidumping and Countervailing Duties and Violations of Trade and Customs Laws
輸入される商品に対して、ダンピング防止関税(AD)、相殺関税(CVD)を徴収することを目的としている。貿易赤字の削減に対する取り組み。
度々名指しで批判される日本ですが、経済産業相は「貿易関連の大統領令は日本に影響がない」という認識を示しつつも、その影響について今後も注視するする構え。
大統領令 13786 Regarding the Omnibus Report on Significant Trade Deficits
深刻な貿易赤字に関する様々な報告書に関する命令。
大統領令 13787 Providing an Order of Succession Within the Department of Justice
司法省の組織に関すること。簡単にいうと、司法省内の偉い役職についている人が、死亡、辞職などで職務を遂行できなくなった場合、「誰が引き継ぐか」の序列を示している。
4月3日署名
覚書 Principles for Reforming the Military Selective Service Process
4月18日署名
大統領令13788:Buy American, Hire American
アメリカの製品を買い、アメリカ人を雇用することを推奨するもの。アメリカファーストの一環だが、トランプ大統領の家族や自身が所有する企業では必ずしもこれに準じておらず、海外製品を購入したり外国人を雇ったりしてる点を批判された。
4月21日署名
大統領令13789:Identifying and Reducing Tax Regulatory Burdens
2016年に発行された税金に関する規則が納税者に過度な負担を強いているかを確認するため、財務長官が90日以内にレポートをまとめる旨の命令。
4月25日署名
大統領令13790:Promoting Agriculture and Rural Prosperity in America
農村部の農業、経済発展、雇用の成長、インフラの改善など、生活の質を促進するための立法、規制、政策変更を行う。
4月26日署名
大統領令13791:Enforcing Statutory Prohibitions on Federal Control of Education
連邦政府が教育に関して過度な関与をしていないかどうかを判断するためのもの。公的教育における連邦政府の役割を評価する。
大統領令13792:Review of Designations Under the Antiquities Act
オバマ前大統領が自然や文化を守るため開発の規制を命じた保護区指定について、見直しを内務長官に求めるもの。
4月27日署名
大統領令13793:Improving Accountability and Whistleblower Protection at the Department of Veterans Affairs
退役軍人局にアカウンタビリティーと内部通報者保護局を設置するよう指示するもの。(アカウンタビリティー:社会の了解や合意を得るために業務や研究活動の内容について対外的に説明する責任のこと。行政機関や企業が保持すべき倫理とされる)
4月28日署名
大統領令13794:Implementing an America-First Offshore Energy Strategy
オバマ前大統領が策定した5カ年計画を見直し、これまで探索の対象外だった海域を調査する。この命令により、米国北極圏および大西洋沿岸部の石油およびガスのリースを禁止するためのオバマ前大統領の措置の多くが見直される。
4月29日署名
大統領令13795:Establishment of Office of Trade and Manufacturing Policy
経済成長の促進、貿易赤字の縮小、米国の製造・防衛産業基盤の強化に関する政策について大統領に助言しながら、アメリカの労働者と国内メーカーを守り、奉仕することを職務とするオフィスを作る。
大統領令13796:Addressing Trade Agreement Violations and Abuses
米国と世界貿易協定(WTO)との自由貿易協定を検討するレポートを作成。商務長官のロス氏は、米国がWTOや二国間協定を撤回するとの見通しを示したが、米国が貿易赤字の原因となる問題に対処していないとすれば、その可能性を完全に排除していない。
大統領令13797:Establishment of the American Technology Council
国民がより良いデジタルサービスを受けられるよう安全で効率的かつ経済的な情報技術の利用を促進するため、American Technology Council (ATC)を設立する。
5月4日署名
大統領令13798:Promoting Free Speech and Religious Liberty
5月11日署名
大統領令13799:Establishment of the Presidential Advisory Commission on Election Integrity
大統領令13800:Strengthening the Cybersecurity of Federal Networks and Critical Infrastructure
サイバー攻撃から国のネットワークや重要なインフラ設備を守るためにセキュリティーを強める。