『雲の向こう、約束の場所』ネタバレ解説

新海誠監督の2004年の作品『雲の向こう、約束の場所』は、眠り続ける謎の病を発症したサユリと、彼女を助けようとする2人の少年ヒロキとタクヤの恋物語。

ですが、その世界観はとても独特で「なんかよくわからんかった」という感想を持つ人も少なくありません。というのも、普段使わないような用語がたくさん出てくるし、描かれている世界も現実とはちょっと違う設定で入り込むのに難しいという点があります。

ここでは、あらすじをセリフとともに追いながらこの物語の世界観と設定を確認していきます。

あらすじと設定解説

南北分断と塔

まだ戦争前、蝦夷(えぞ)と呼ばれた巨大な島が、他国の領土だった頃の話だ。

 こんなセリフから物語は始まります。津軽海峡を境に北海道と青森以南が南北に分断されている世界です。北海道は蝦夷と呼ばれ、ユニオンという国が占領しています。

あの頃、僕たちはふたつのものに憧れていた。憧れのひとつは、同級生の沢渡サユリで・・・、そしてもうひとつは、津軽海峡を挟んだ国境のむこうにそびえる、あの巨大な塔。

ユニオンの占領下にある北海道には高くそびえ立つ塔が立っていて、ヒロキたちがいる青森からも見えます。ヒロキとタクヤはその塔に憧れていて、いつかあの塔まで飛ぶんだという野望を胸に自分たちで2人乗りの飛行機「ヴェラシーラ」を作っています。

約束

2人は塔まで飛ぶという野望をサユリに知られてしまい、「いつかサユリを乗せてあの塔まで飛ぶ」という約束をします。この話の根幹はタイトル通り、分断された北海道にそびえ立つ塔までサユリを乗せて飛ぶということですね。

あれから三年、あの日を境に僕は沢渡には会っていない。

しかしサユリは2人の前から忽然と姿を消してしまいます。ヒロキは中学を卒業したあと東京の高校に進学しますが、サユリのことを忘れられずサユリが引いていたバイオリンを引くようになります。

塔は何か、平行宇宙とは何か?

塔に関して出て来る言葉で「平行宇宙」があります。私たちの住む宇宙の他にもたくさんの宇宙があるという考えのもとで、その別の宇宙のことを平行宇宙と呼びます。ストーリーの中では「宇宙が見る夢」とも言われてましたね。

タクヤはこの世界の宇宙を別の宇宙と置き換える異相変換を研究しています。タクヤはもともと物理学が得意で、異相変換をちょっとだけ起こすことができます。

ぎりぎり肉眼で見える程度の置き換えがやっとで、ユニオンの塔には及びもつきません。(中略)分からないのは、異相変換がなぜ塔の周囲2キロメートルでとまっているかです。

塔の周りではその異相変換が起きています。つまり塔の周りは別の宇宙になっているってことですね。で、その範囲は塔を中心に2キロで止まってるってことです。

なぜ2キロで止まっているのか、サユリが眠り続けていることに秘密があるようです。

なぜサユリは眠り続けるのか

やはり対象の眠りが塔の活動を抑えていた鍵だったんだ。塔の捉える平行宇宙の情報は、周囲の空間を侵食するかわりに今は対象の夢に流れ込んでいる。沢渡サユリには、夢を見続けていてもらうしかない。

眠り続けるのは、塔から流れ込む平行世界の情報に彼女の脳が耐えられないからだと推測されてる。もし彼女の眠りが破られれば、塔を中心に、世界は瞬く間に平行宇宙に飲み込まれることになると思うよ。

サユリはこの世界が平行宇宙に飲み込まれるのを防いでくれている、ということですね。ではなぜサユリなのかっていうと、その塔を設計した物理学者がサユリの祖父だからです。

再開と再約束

眠り続けているサユリはずっと夢の中でひとりぼっち、そこに現れるのがヒロキです。サユリが眠り続けていた病院に来たヒロキは転院済みのサユリの気配を感じ取って再会します。

なんだろう…夢と、同じ空気だ。沢渡…そこに、いるのか…?

そして叶えられなかった約束をもう一度かわします。

沢渡、俺、今度こそ約束をかなえたいんだ。沢渡を塔まで乗せてヴェラシーラを飛ばすよ。そうすれば僕たちはまた会えるって気がするんだ。ねえ、もう一人にはしないよ、僕はもう何も諦めない。ずっと沢渡を守るよ、約束する。

空間を超えて出会ってる訳なので、どういうことよ?ってなってしまう人もいるかもしれませんが、都合のいい言葉があります、「奇跡」。

塔とサユリの目覚め

今度こそ約束を果たすため、ヒロキは東京から青森に戻りヴェラシーラの完成を急ぎます。タクヤはそんなヒロキを手伝います。同時期、アメリカがユニオンに宣戦布告。津軽沖で戦争が始まります。このゴタゴタに紛れてヴェラシーラを飛ばす作戦。

海峡を抜けるまではジェットで低空をすり抜けて、42度線を抜けてココのヤマにさしかかったあたりで高度をとって巡航飛行・・・こんな感じでどうかな?

そうだな、他にやりようもなさそうだ。塔に着いたら沢渡の目覚めと前後して、地上の異相変換が再開する筈だ。そうなったらすぐに離脱して、塔から10km以上離れたらシーカーミサイルを飛ばしてくれ。自律飛行で塔まで飛ぶようにしてあるから、それで全て終わりだ。

無事に塔までたどり着いたヒロキとサユリ。予想通り、サユリは目覚めます。はっきりとはわかりませんが、目覚めたことによって、サユリは気持ちをなくすようです。

おねがい、目覚めてから一瞬だけでもいいの。今の気持ちを消さないでください。ヒロキくんに私は伝えなきゃ、私たちの夢での心のつながりがどんなに特別なものだったか。誰もいない世界で、私がどんなにヒロキくんを求めていて、ヒロキくんがどんなに私を求めていたか。

「何か大切なことを伝えなきゃいけないはずだったのに消えてしまった」と泣いてしまうサユリを「大丈夫」とヒロキが慰めます。そして、サユリが目覚めたことによって塔の周りでは急激に異相変換が拡大。それを食い止めるため塔から離れたところでミサイルをうち、塔の破壊に成功します。

ストーリーのその後

冒頭では大人になったヒロキがヴェラシーラを作っていた場所を訪れて懐かしんでいるシーンがあります。目覚めたはずのサユリはおらず、ヒロキひとりです。このことから、ヒロキとサユリはその後うまくいかなかった説が有力。

というか、小説版ではサユリは自分からヒロキの元を離れてひとりでも生きていくと決めます。


映画を見たけどよくわからなかったという方は小説も一緒に読むとわかるようになると思います。

個人的な感想

冒頭でも書いた通り設定が難しいので1度見ただけでは理解できませんでしたが、音楽とのマッチングや風景描写の美しさはさすが新海ワールドだなぁと感じます。

新海誠監督の作品は「恋が上手くいかない」という共通点があると思います。最新作の『君の名は。』では、かろうじて瀧と三葉は再会しその後上手くいきそうな予感でエンディングを迎えますが、それ以外の作品『秒速5センチメートル』や『言の葉の庭』ではハッピーエンドとはなっていません。

この作品の映画版ではヒロキとサユリがうまくいかなかったことは明示的に表現されてはいませんが、冒頭のシーンからうまくいかなかったであろうというネガティブな予感が残ります。そしてうまくいかなかった恋を引きずる主人公という点では秒速5センチの貴樹のようです。

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