シン・ゴジラで考える自衛隊の防衛出動、「武器使用」と「武力行使」は違う

総理!いいですね!

(出典: TOHO CO.,LTD.)

映画『シン・ゴジラ』では自衛隊がゴジラ撃破のため防衛出動します。防衛出動とは日本が武力攻撃をうけた時、国土と国民を守るために内閣総理大臣によって命じられる出動ですが、ゴジラに対してこの出動は妥当かという論争が巻き起こりました。

ここでは自衛隊の出動に関して、論争のポイントを考えてみたいと思います。

災害派遣、治安出動、防衛出動

自衛隊法では以下の通り防衛出動と武力行使について定められています。

(防衛出動)

第七十六条  内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては、武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律 (平成十五年法律第七十九号)第九条 の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。

一  我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態

二  我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態

2  内閣総理大臣は、出動の必要がなくなつたときは、直ちに、自衛隊の撤収を命じなければならない。

(防衛出動時の武力行使)

第八十八条  第七十六条第一項の規定により出動を命ぜられた自衛隊は、わが国を防衛するため、必要な武力を行使することができる

2  前項の武力行使に際しては、国際の法規及び慣例によるべき場合にあつてはこれを遵守し、かつ、事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならないものとする。

自衛隊法はこちら

ちなみに自衛隊には「災害派遣」「治安出動」「防衛出動」という3種類の出動があります。

災害派遣

国民にとって最も身近な任務。武力行使はできない。自然災害などで派遣される自衛隊のニュースを目にしたことがある方も多いと思います。

一般的には県知事などから出動要請を受けたのち派遣となりますが、要請がなくても自衛隊の判断で先遣部隊が派遣されることも多くあります。このきっかけは阪神淡路大震災にあると言われます。出動要請が遅れたことにより自衛隊の派遣が遅れてしまい、この初動のもたつきで多くの人命が失われてしまいました。以降、自衛隊は出動要請の有無に関わらず即応体制を整えています。

なお有害鳥獣駆除でトドを飛行機で撃ったこともあります。

治安出動

昔はデモ隊を機動隊が制圧できなくなった時を想定していましたが、最近ではテロ行為などを想定しています。警察力で治安維持が不可能なときに行われ、武器の使用は警察に準じます。過去には浅間山荘事件で出動が検討されましたが、最終的には出動しませんでした。

防衛出動

映画『シン・ゴジラ』でも論争のポイントとなった防衛出動。武力攻撃を受けた、または武力攻撃を受けそうな切迫した状況にある場合において内閣総理大臣の命令により出動し、必要な武力を行使することができます。

ゴジラには災害派遣か、防衛出動か

以上をふまえて、石破茂元防衛相が自身のオフィシャルブログで発言した自衛隊の防衛出動に対する見解を見てみます。

何故ゴジラの襲来に対して自衛隊に防衛出動が下令されるのか、どうにも理解が出来ませんでした。いくらゴジラが圧倒的な破壊力を有していても、あくまで天変地異的な現象なのであって、「国または国に準ずる組織による我が国に対する急迫不正の武力攻撃」ではないのですから、害獣駆除として災害派遣で対処するのが法的には妥当なはずなのですが、「災害派遣では武器の使用も武力の行使も出来ない」というのが主な反論の論拠のようです。「警察力をもってしては対応困難な場合」に適用される「治安出動」ではどうなのか、という論点もありそうです。

石破茂元防衛相の立場は防衛出動ではなく災害派遣です。これを理解するためには「武器使用」と「武力行使」が違うんだということをまず知っておかなければならないと思います。

「武器使用」と「武力行使」は違う

紛らわしいのですが「武器使用」と「武力行使」は違います。

  • 武器使用 ー 殺傷能力のある銃や装備を使うこと。警察が正当防衛で拳銃を使うのもこれにあたる。
  • 武力行使 ー 「物的・人的組織体」が武力紛争の一環として戦闘行為を行うこと

武力行使が認められているのは防衛出動だけですが、災害派遣でも武器の使用はできる、よって石破茂元防衛相は、防衛出動という命令の下で武力行使を行うよりも、災害派遣という名の元に武器使用することが法的に妥当と言っているわけですね。

前述の有害鳥獣駆除でトドを飛行機で撃った件は「武器使用」に当たり、トドがゴジラになった感じです。

まとめ

劇中の自衛隊はまず災害派遣で出動しています。ゴジラ対処に関して治安出動も検討されていますが、最終的には超法規的措置(特例的に法律外の行動をする)で防衛出動することにより自衛隊が動きやすくなっています。

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